〔主要な業績〕高度な独自加工技術が国際競争力を発揮するための条件についての考察 ― ガラス機器製造などを手掛ける株式会社ミトリカを事例として―
太田啓文, 本稿は,茨城県水戸市にあるガラス機器製造などを手掛けるミトリカを取り上げ,どのようなケイパビリティが国際競争力の発揮に求められ,その前提となる条件とは何かを明らかにすることを試みた。その結果,製品の機能拡充があまり見込まれず,市場規模が小さくかつ製造技術が模倣困難ゆえ市場が比較的安定し,とりわけAI等先進技術による代替が困難な領域では,熟練工による蓄積技術に代表される経営資源の模倣困難性(Dierickx & Cool, 1989)が機能し,それゆえ国際競争力が発揮されていることが推察された。理化学分析用をはじめとする特殊用途向けランプは常に高品質を求められる製品ゆえ,一般的な民生品のようにコモディティ化することがなく,熾烈な価格競争に陥ることがない。大手企業によるいわば力業の事業展開が通用せず,一にも二にも圧倒的技術こそが雌雄を決する。そればかりか,高品質の追求が顧客の要求を遥かに超えてしまうことで生じるとされるイノベーションのジレンマ(Christensen, 1997)に陥ることもない。したがって,ミトリカにとって長年の蓄積技術に基づき,顧客の要求に応じてひたすら高品質な製品を提供し続けるのが望ましいビヘイビアであり,そこでは環境の変化を察知し新たな事業機会を見出して自社の経営資源を再構成するダイナミック・ケイパビリティよりも,むしろ自社の資産や資源をより効率的に扱うためのオーディナリー・ケイパビリティが求められるという含意が得られた。
産業学会研究年報, 2025年06月, [査読有り]
〔主要な業績〕株式会社諸岡のビジネス・システムに関する一考察
太田啓文, 本稿では、茨城県南に根差す地域密着型企業でありながら、世界的な大型建設機械の製造・販売を手掛ける株式会社諸岡を取り上げ、個々の部品を適切に組み合わせるアセンブラの同社が、その立場を活かして地場の製造業との緊密な関係性を基盤とする模倣困難なエコシステムを形成する一方、主要部品調達先の国内大手各メーカーと適切な距離を保つことで相対的なパワーを保持していることを示した。諸岡のビジネス・システムは、同社のイノベーティブな技術と産業クラスターを形成する協力会が巧みに組み合わさって実現されていることが明らかとなった。
技術と経済, 2025年03月01日, [査読有り]
〔主要な業績〕自社の強みを無効化しかねない外部環境変化への対応 ― 株式会社ナジコのディーゼルパワーユニット開発によるアーキテクチャル・イノベーション
太田啓文, 本稿では,ナジコのDPU開発によるアーキテクチャル・イノベーションを取り上げ,自社の強みを無効化しかねない外部環境の変化に同社がどう対峙しようとしているのかを考察した。分析の結果,同社が旧国鉄時代から築いた鉄道分野での強力なブランド力と,特定メーカー色のない独立系企業という立場を活かして,当該分野に詳しい外部の有力人材の登用により,これまで国内では取り組まれてこなかったディーゼル車両床下機器配置のユニット化を先導していることが明らかとなった。
産業学会研究年報, 2024年06月, [査読有り]
〔主要な業績〕工業塗装技術のサービタイゼーションによる新業態の創出 ~株式会社ヒバラコーポレーションの サービス型工業塗装事業に関する一考察~
太田啓文, 本稿では、サービス型工業塗装という新業態を編み出した中堅工業塗装企業のヒバラ社を題材に、同社の技術をどのように新業態の創出に結実させたのかを、技術のサービタイゼーションの視座に基づき考察し、内部・外部環境など諸要因の前提の下で、技術のサービタイゼーションが「深層の競争力」を「表層の競争力」向上に結実させる促進要因となりうることを示した。分析の結果、ヒバラ社は、センサー・通信制御装置からなるハードウェアと、データ収集・分析制御するソフトウェアを組み合わせたリモート制御・監視技術からなる「深層の競争力」を、サービス型工業塗装事業による商圏・ターゲット顧客層の拡大という「表層の競争力」へと接合しているという含意が得られた。
技術と経済, 2024年05月01日, [査読有り]
〔主要な業績〕大学発ディープテック・スタートアップを駆動するダイナミック・ケイパビリティとアントレプレナーシップ
太田啓文, 本稿の目的は、ダイナミック・ケイパビリティとアントレプレナーシップの視座から、開発リスクの大きいディープテック・スタートアップDinowの形成プロセスを明らかにすることである。結果として、創業者のダイナミック・ケイパビリティが教え子のCEOを駆動する一方、創業者のアントレプレナーシップが同社の活動を社会実装へと誘起していることが示された。, 一般社団法人科学技術と経済の会・日本MOT学会
技術と経済, 2024年01月01日, [査読有り]
〔主要な業績〕間接資材EC市場におけるプラットフォーム戦略―株式会社MonotaROの事例研究―太田啓文, 間接資材国内最大手のモノタロウの競争力の源泉は何か。本稿では、モノタロウの事業戦略をWTAならびにその攪乱要因の視座から分析を試みた。その結果、モノタロウは、マルチホーミング・コストの視座では、WTA要因を満たすことで顧客基盤維持とさらなる顧客獲得をも誘発すると同時に、ニッチ市場の数と大きさの視座では、WTAの攪乱要因を満たすことで現在の地位を確立しているというインプリケーションが得られた。加えて、モノタロウはその市場の特殊性ゆえに、ターゲット拡大に伴う取扱い点数の継続的な増大によるいわば一時的な競争優位の連鎖を獲得しており、それゆえメガプラットフォーマーが実践する戦略とは異なることが示唆された。, 組織学会
AAOS Transactions, 2023年11月10日,
[査読有り] 〔主要な業績〕老舗酒造会社の公衆衛生事業進出による両利き経営の実践,-明利酒類株式会社による不連続でラジカルなイノベーション-太田啓文, 厳しい経営環境に晒されている企業において、両利き経営はどのように体現され、苦境に陥っていた経営の抜本的な立て直しへと帰結されたのか。本稿では、右肩下がりの市場環境に加えコロナ禍という未曽有の危機に瀕した老舗酒造会社が、公衆衛生事業への進出を果たした事例を取り上げ、ラジカルなイノベーションを生み出す「両利き」を実践するメカニズムを解明することを試みた。ファミリー企業はラジカルなイノベーションにあまり積極的でないとされるが、明利酒類ではコロナ禍まで外部企業に勤務していた創業家次男が企業変革を促し、ファミリー企業によるラジカルなイノベーションを先導したという含意が得られた。, 組織学会
AAOS Transactions, 2023年11月10日,
[査読有り] 企業の経営資源と対応する研究開発戦略に関する一考察 : DNAチップ事業におけるケーススタディを通じて
太田啓文
東京大学博士学位論文, 2012年07月12日
Accumulation and Circulation of the Knowledge Needed for Biotech Business Promotion by Engineers of R&D Section in an IT Enterprise: The Case of Hitachi Software Engineering Co., Ltd
Hirofumi Ota, Kazuyuki Motohashi
The Asian Journal of Technology Management, 2011年12月